“真剣勝負” 『恋愛幸福論で10のお題 Vol.7』
        〜年の差ルイヒル より
 


 【Trrrrr,trrrrrr, (かちゃ)
  ヨウイチです。
  ただ今、よい子のお悩み相談室開催のため、電話に出られません。
  御用とお急ぎの方は、
  ぴーという発信音の後にメッセージをお残し下さい。
  ではまた。(ぴー)】

またですか? 青少年相談室のせんせえ。
(苦笑)



       ◇◇◇


今年の六月は、例年にないほど梅雨らしい天候が続いており。
特に、南や西日本では、
1年分のノルマはとうに達したという勢いで、
ほぼ連日、豪雨が続いてもおり。
そんな雨催いの、蒸し暑くて不快な日々は、
洗濯物が乾かないだの、野菜の生育に響いているだの、
土砂災害の恐れもあるだのと、
嬉しくはないものばかりを齎してくれているものの、
それでも…何とはなく、
日々の話題が打ち沈みがちなそれで、
塗り潰されずにいる今日この頃なのは。

 “そりゃまあな。
  よっぽど偏屈な奴でもない限り、
  寝不足になっちまってもいいってゆう、
  ハイになる理由にしかなんねぇって。”

開催地は南半球で、しかも日本の真裏に当たる国なので、
余程のこと昼日中という時間帯にでも始まらぬ限り、
真夜中にキックオフという時差攻撃に遭うのも仕方がなくて。
いやいや、むしろそういう不便さがまた、
それを乗り越えた達成感も加算され、
勝ったときには込み上げる快感も倍加するよな気がしてサと。
ご多分に漏れず、こちらのおチビさんこと小悪魔様も、
ただ今 絶賛開催中なのは同じな、アメフトの春季大会も大事としつつ、
それでも…気になるもんはしょうがないと。
日付を越すよな時間帯のも、
平日に未明開始というハードなゲームでさえも、何のその。
眠い目を擦り擦り、テレビの前へ陣取って、
こういう時は居てくれるのが非常に嬉しいと感じる“同士”として、
やっぱり起きてた父上にぽそんと凭れつつ。
そろそろ慣れて来たブブゼラの響きと共に繰り広げられた、
ジャパンブルーの死闘 三試合全部を、
熱狂や興奮をその手へ握り締めつつ、思い切り堪能していたし。
そして、
そんな坊やを“この節操なし”とか“浮気者め”とか、
罵ることの出来る存在なんてのも いやしない。
怖いものなしな坊やだからと言うんじゃなく、
彼が日頃から尻を叩いている賊学の面々にしても、
人のことは言えないほどのめり込んでおいでの模様で。

 『あたしらの場合、
  つくづくと、土日に夜更けの試合が巡り来てなくて助かってるよね。』

会社勤めの人間や、普通一般の学生さんも、
そうなってくれた方が翌日に響かなくって助かるのだろうが。
こちとら、
サッカーに負けないほど、体力も持久力もいるアメフトで、
日曜はほぼ毎週公式戦が控えている身。
徹夜明けに試合は勘弁してほしいのだ、実際。

  そして、うんと格上ばかりのグループに放り込まれた全日本は、だが、
  何と無事にグループ二位で予選を突破。
  最終戦となったデンマークとの対戦は、
  未明3時半にキックオフだったというに、
  観戦した人々は、一部、
  そのまま町に繰り出す暴走も見せたのだそうで。

 “元気なもんだよな、今時の若いのは。”

………あなたも“今時の若いの”じゃないんでしょうか。
え?“若いの”と呼ばれるのはもっと先?
あ、そうかそういう把握なんだ、うんうん。
などという、場外からのお声かけへも律義にお相手くださっている、
金髪白面、金茶眸の坊やが、直接向かい合っているのはというと、

 「もしかして 進が原因か?」
 「……………ふみぃ。」
 「おいおい、またかよ。」

此処はいつぞやにも向かい合ってた、スタンドバータイプのカフェであり。
小悪魔坊やが、一応は真摯な態度で向き合っている相手も、あの時と同じ。
まとまりの悪い、微妙に甘い色合いした黒髪を、
柔らかそうにふんわりふかふかと盛った頭も、
負けないほどふわふかなのだろ頬も、
気のせいかどこか悄然と萎えさせている、
クラスメートの小さな坊や。
小早川さんちのセナくんが、
なにやら深刻そうに、悲しそうな悩ましげなお顔をし、
お話聞いてと、小悪魔、もとえ、蛭魔くんと向かい合っている次第であり。
ほんの数日前に始めたばかりだという夏のメニュー、
スムージ風のフローズン・ヨーグルト、
ストロベリー風味を前にうつむいてしまったのがセナくんで。
バニラ・フロート on エスプレッソの、
まだアイスと混ざっていない辺りをストローで1口すすったそのまんま、
困ったもんだと眉を寄せてしまったのが、
ヨウイチくんという二人の小学生。
厳密に言やぁ、
やっと2桁という年齢の幼い学童が、
こういった飲食店内へ、
保護者の同伴でない利用のために居るというのはいかがなものか…と
一昔前であれば由々しき問題にもなったろうことながら。
今ドキじゃあ、それこそ塾通いの小学生が
マックやコンビニで腹ごしらえというのもザラな世情。
久々にお目見得の、抜けるような青空に磨かれたような、
明るく清潔、表通りへも内部は素通しなガラス張りというお店で、
しかも平日の昼下がりというまだまだお早い時間帯。
風紀的にもさしたる問題はなかろうと、
お店のマスターやバイトだろうウエイトレスのお姉様がたも、
特に様子伺いをするでもなくの、
むしろ、可愛い可愛いと目許細めて見守っておいでなほどであり。
そういう風に、咎めだてはせずに放っておいて下さるのはありがたいのだが、

 “こうまで項垂れてるのを前にしてっと。”

何か、こっちが苛めまくってるように映んねぇかな、と。
いまさら憎まれっ子扱いを厭うつもりはないながら、
覚えのない濡れ衣は、やっぱりごめんこうむりたいなと思う、
意外なところで“普通”の感覚をした子ヒル魔くんであるらしく。

 “……放っとけ。

冗談はともかく。
(苦笑)

 「……で。今度は一体 何してこじれた。」
 「うう…。」

ただの我儘での行き違い、
それを叱られちったの、どうしよう…なんてなレベルの痴話喧嘩なら。
進自体が自己修復するのは無理だとしても、
微妙な機微に人並みに聡いだろう、
桜庭とか間近いお仲間が何とか諭しもするだろうから。
わざわざヨウイチくんへまでお鉢が回って来ることもないのだが。
そういった前例のあるこっちゃあない“困った”が起こった場合に、
ヨウイチくんへとすがって来るセナくんなだけに。

 “そういうことって、俺もあんまり得意じゃねぇんだがよ。”

見栄えこそ、繊細そうな美少年ながら、
その実、気遣いじゃ駆け引きじゃなんて面倒臭いからと、
大声出して言うこと聞けってのなんて、
強引な態度や強気な作戦で相手を従わせるタイプの、
ヨウイチくんだっていうのにね。

 “だっていうのに、何でこいつは俺へ話を振って来んのかねぇ。”

あれか、進と交際してるってことを重々知ってるから、
まずはと それへの前説明が要らないからかな。
それとも、俺も高校生の知り合いが たんといるもんだから、
御し方を知ってるとでも把握されてんのかな。
セナくんがもじもじと…最後の悪あがきか、
若しくは言葉を選んでいるらしいのを待ちながら、
そんなこんなを思っておれば、

 「セナが悪いのかもしんないの。」

大きめの真っ白いマグカップへ、
ソフトクリームのように渦巻きに盛られたフローズンヨーグルトが、
その輪郭をすっかりと丸くしつつあるのも気に留めず。
小さなお手々をお膝に置いての握ったり開いたりしながら、
愛らしいお顔を…さぞかし大きなお悩みがあるのかと思わすほど、
それはそれは深刻そうに思い詰めさせているものの、

 「アメフトがらみなのか?」
 「ううっと、微妙に ちやうかも…。」

だろうよな…と、そこへは予想も立ってはいたけれど。
だって、アメフトに関わることへは、
セナ坊だって駄々こねて邪魔するよなことはしない。
進清十郎というお兄さんが、どれほどアメフトへ打ち込んでいるか、
それは深い次元で理解を寄せてもいるのだし、
練習に打ち込んでいたり、試合に出ているそんな折の、
そりゃあ真剣で精悍なお顔や姿へも、ぞっこんな坊やなのだからして。
余計な茶々を入れたり、お邪魔をするような真似がご法度だくらいは、
お洋服を着たままじゃあ、
お風呂には入らないというほどには判ってもいるようで。

 ただまあ、稀に。
 とんでもなく汚れた格好になってたからと、
 そのまんま風呂場へ直行せよと運ぶ場合もあったりするから、
 世の中って面白い♪

 “………こら。”

だってさあ。
(笑)
例えば、今回セナくんが、
深刻な悩み事、進さんとの大問題として抱えて来たことだって。

 「…セナ、進さんのこと怒らしちゃったかもしんない。」

ここまでは まま、いつもと同じなパターンで。
このところ頓
(とみ)に、
あのお不動様の鉄面皮を読めるようになったセナだとて、
そこはやっぱり、
全国区で最強最速という冠を戴くアメフトボウラーの思うところ、
まだまだ幼い小学生には酌めない部分も多々あって当然だ。
………まあ中には、やすやす読んだその上で、
そうまで年上のお兄さんを手玉に取ってる坊やもいたりしますけど。
(苦笑)
何かしら他愛ないことで意志の疎通が生じてしまい、
進に話が通じなかったのを
機嫌を損ねたとでも案じているものかと思っておれば、

 「さっかあのお話ばっかしてたから、
  進さん、怒って むむうってなっちゃって。」

 「………はい?」

あのねあのね、今、わあるどかっぷって やってるでしょお?
それのお話してたらね、だんだん 進さんのお顔がネ、
むむうって、おっかないくらいに堅くなっちゃったの。
新しく始まったアニメのお話したときなんかに、
そいやこういうお顔になったの思い出してね。
だとしたら、進さんとしてはよく判らないことだったのかなあって。
さっかあもスポーツだから、
アメフトと同じで、ちゃんと知ってる進さんだって思ったのに、

 「ホントぉは知らなかったのかなって。
  そんなお話を無理に聞いてもらったから、
  途中から付いてけないってゆ、気持ちになったのかなあって。」

小さな口許がうにむにと、こらえ切れない感情から歪み始めたものの、

 「…ちょっと待て。」

言葉だけじゃあなくの、白い手のひらまでかざして見せて、
感情の高ぶりごと押さえ込みたいかのよに、
まあお待ちとの声をかけたヨウイチくんだったのは言うまでもなくて。

 「いくら何でも、進だってサッカーくらいは知ってると思うぞ。」

何たって、サッカーとラグビーは兄弟のようなものであり、
そんなラグビーから発達したのがアメリカンフットボールだ。
アメフトのルールを知らぬ人はあっても、
もっと穿った言い方をするならば…
テニスや野球の遊び方がちっとも判らない人はあっても、
サッカーのあれこれを全く知らないで、
何かしら球技に打ち込んでる人間なんてのは、
なかなか珍しいのではなかろうか。
そこまであり得ないという言い方をした子ヒル魔くんだと、
そこはさすがに通じたか、

 「うん。サッカーは知ってるって。」

あらそうなの?と、拍子抜けしちゃうほどのあっけらかんと、
そこのところは訂正下さってから、

 「ただね、あのね? イタリアがはやばや負けちゃったのとか、
  オランダは やっぱい強かったねとか、
  そうゆうお話ししたら、段々お顔がこあくなっちゃって。
  今まで見たこと無いお顔になっちゃって。」

 「ほほお。」

昨日なんてイギリスがドイツに大差つけられて負けたしな。
そうそう、そのお話しもしたの…と言いかかり、

 「………何でヒル魔くん、知ってるの?」
 「別に、話についてけない大人ってのは、進に限ったこっちゃ無いからだ。」

まったくよぉ、どこの年寄りも変わんねぇのなと、
はぁあと溜息をついたヨウイチ坊やだったが、
それでも気を取り直すと、

 「お前にも読めない顔になったんで、
  てっきり怒らせたと思ったらしかったが、
  それは考え過ぎだと思うぞ。」

 「ほんとお?」

依然として心細げに目許を潤ませているお友達へ向け、
ああと頷いてやり、

 「きっとそりゃあ、
  イタリアやイギリスはサッカーの強豪だってのを知らなかったんで、
  何でこうも残念がってるセナなのかが判らなくて困惑しただけだ。」

 「はや?」

だから。
芸能人とかネットのおもしろ動画とか、進ってあんまり知らないだろ?
それと同じで、
サッカーの強い国とか有名選手までは知らなかったんだろうよと、
やっと落ち着けたとばかり、
コーヒーフロートへ意識を戻してストローをてにすれば。
それへつられたか、
セナくんもまた、スムージーのようになったフローズンヨーグルトへ
長いめのスプーンをつけたものの、

 「はややぁ…。」

されどお顔はまだどこか
中途半端に呆気に取られたまんまである様子。
そんな坊やへ、今頃 桜庭とかが察してのこと、
サッカーのルール以外の定説っての、
付け焼き刃ながら叩き込んでる頃かも知れねぇぞ、と。
妥当なところというのを推測して教えてやりつつ、

 “ったく、これだから何か一つっきりへのバカやろはよ。”

ウチのルイでも、
アメフト以外でならバイクの知識とか、
マニア並みに備わってるってのによ、と。
手のかかるお友達の恋人さんの実情、
すらすらと読み解けたその途端に
脱力もしちゃったらしい感慨を漏らしつつ。

 “でもまあ、らしいっちゃらしいか。”

それほどのこと、真摯に集中しているという証しでもあるのだなと、
あれほどの努力する天才へ、
初耳なことだ、でも、大事なこの子は詳しいなんて、
じゃあ自分はどうしようか…なんてこと、
あんな堅物が堅物だからこそ困惑したらしいというのが、
呆れるやら可笑しいやら。
そしてそして、セナくんの側もまた、
これまでに見たことの無いお顔で困惑されたと、
素早く気づくところが何ともはや。
周囲の人々の方が察しがいいのも問題なのかもしれないと、
一丁前に肩をすくめつつ、
ほら早く食べな、溶けてるぞと、ヨウイチくんが勧めておれば、


  そんなところへと軽やかに鳴り響いたのが、
  今年度放映中の戦隊シリーズの主題歌のサビの部分と来て。
  あ、ちょっと待っててねと、
  いそいそケータイを取り出すセナくんな辺りが判りやすいったら。
  次のパラグアイ戦は、是非とも基礎知識を均したうえで、
  お子様には微妙に夜更けのキックオフではありますが、
  一緒に楽しく観戦できたらいいですね。




  〜Fine〜 10.06.28.


  *サッカーの全日本チームの活躍ぶりへ、
   でもでも進さんの世間知らずは、
   ややこしい格好で やっぱり炸裂してんじゃないかと思ったもので。
   パラグアイ戦は、平日の22時にキックオフですよね。
   セナくん、頑張って起きてられるかな?

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